第22回 職場での熱中症対策義務化(令和7年6月1日施行)について

今年も早いもので、もう5月も終わろうとしています。
最近万博に行ってきたのですが、大屋根リングのない日なたの道では日差しが強く、熱中症で運ばれていると思われる方も複数見かけました。
今回は、6月から施行される熱中症対策義務化について解説したいと思います。

背景として、近年職場における熱中症による死傷者数は増加傾向にあり、特に屋外での作業が多い建設業は多い傾向がみられます。まずは以下をご覧ください。

出典:厚生労働省作成の「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況 (令和7年1月7日時点速報値)」(以下、「国速報値資料」)「1」より引用し、一部抜粋・加工して作成

出典:国速報値資料「2」より引用し、一部抜粋・加工して作成

出典:国速報値資料「2」より引用し、一部抜粋・加工して作成

出典:国速報値資料「5」より引用し、一部抜粋・加工して作成

このように業種別の熱中症の死傷者数や死亡災害では建設業が最も多く、上記のような死亡災害の事例が報告・公表されています。

そして、熱中症は死亡につながる恐れがあることから、国は対策を強化しています。

出典:厚生労働省作成のパンフレット「職場における熱中症対策の強化について」(以下、「国パンフレット」)P1より引用し、一部抜粋・加工して作成

熱中症死亡災害のほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」とされており、適切な対策の実施が求められています。

そのため国は以下のとおり法令を改正し、熱中症対策を義務化しました。

改正労働安全衛生規則(令和7年6月1日施行分)

(熱中症を生ずるおそれのある作業)

第六百十二条の二 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。

2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。

出典:厚生労働省作成のリーフレット「職場における熱中症対策の強化について」(以下、「国リーフレット」)P1より引用し、一部抜粋・加工して作成

義務化に伴う現場での対応のポイントは、「体制整備」、「手順作成」、「関係者への周知」の3点セットです。事前にそれらを行って、熱中症の初期症状を早期に発見し、迅速かつ適切に行動することが命を救うことにつながります。

また、熱中症の定義は様々ですが、対策の対象となるのは「WBGT(※気温だけでなく、湿度や周辺の熱環境も含めた指標である「暑さ指数」のこと)が28度(厳重警戒)以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間を超えて実施が見込まれる作業」です。
なお、下記の国の通知にもあるように、出張先や作業場所間での移動時が含まれることにも注意が必要です。

第3 1(1)
イ 「暑熱な場所」とは、湿球黒球温度(WBGT)が28度以上又は気温が31度以上の場所をいい、必ずしも事業場内外の特定の作業場のみを指すものではなく、出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨であること。また、「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、上記の場所において、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業をいうこと。 なお、非定常作業、臨時の作業等であっても上記の条件を満たすことが見込まれる場合は対象となること。

出典:厚生労働省労働基準局長通知「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」(令和7年5月20日基発0520第6号)

そして、「体制整備」、「手順作成」、「関係者の周知」の具体的なイメージとしては、下記が参考になると思います。

出典:国リーフレットP2より引用し、一部加工して作成

出典:国パンフレットP8より引用し、一部抜粋・加工して作成

出典:国通知「別添1」より一部抜粋して引用

このフロー図などはあくまでイメージなので、実際の現場の状況に応じた手順作成等が必要になります。いずれにしても、義務化を踏まえて、しっかりとした熱中症対策を行うことがより一層求められることになります。
また、万が一熱中症によって死亡災害が発生した場合、損害賠償責任が生じる恐れもあることから、そのリスクへの対策として使用者賠償責任保険の加入なども考えられます。

以上が、職場における熱中症対策義務化(令和7年6月1日施行)の概要とその注意点です。少しでも参考になれば幸いです。

もし建設業許可取得をご検討の業者様がおられましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。法律用語は難しいですが、わかりやすい言葉を心がけて対応させていただきます。

ワークルー行政書士・社労士事務所のホームページはこちら