第23回 退避や立入禁止等の措置の対象範囲拡大などについて(令和7年4月施行)

今回も安全衛生関係の話題を紹介したいと思います。
令和7年4月に改正法令が施行され、危険箇所等での作業に関する規制が強化されました。
まずは、国のリーフレットをご覧ください。

出典:厚労省HP「個人事業者等の安全衛生対策について」における「労働安全衛生規則等の一部改正(2025年4月~施行)」の「リーフレット」(以下、「2025年国リーフレット」)P1より一部抜粋・引用、加工して作成

出典:2025年国リーフレットP2より一部抜粋・引用、加工して作成

このように、自社の労働者以外の人(一人親方など)に対しても、自社の労働者と同様に、
①事故発生時の退避措置や、危険箇所への立入禁止措置の対象とするほか、②保護具使用等の周知が義務化されます。

また、周知は以下のいずれかの方法で行う必要があります。
① 常時作業場所の見やすい場所に掲示または備えつける
② 書面を交付する(請負契約時に書面で示すことも含む)
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録した上で、各作業場所にこの記録の内容を常時確認できる機器を設置する
④ 口頭で伝える(周知内容が複雑な場合は不可)

それでは、今回の改正の背景についてもふれておきたいと思います。
背景として、令和3年5月のアスベスト訴訟最高裁判決をまず理解する必要があります。
これは、アスベスト(石綿)を含む資材を用いた建設作業に従事していた元労働者とその遺族に対して、国と建材メーカーの責任を認めたものです。
この中で、労働基準法上の「労働者」ではない一人親方等に対する責任を認めた点が重要です。

以下のとおり、最高裁判決の一部を抜粋してご紹介します。

(…中略…)
また,安衛法57条は,これを取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあるという物の危険性に着目した規制であり,その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると,所定事項の表示を義務付けることにより,その物を取り扱う者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。

なお,安衛法は,その1条において,職場における労働者の安全と健康を確保すること等を目的として規定しており,安衛法の主たる目的が労働者の保護にあることは明らかであるが,同条は,快適な職場環境(…中略…)の形成を促進することをも目的に掲げているのであるから,労働者に該当しない者が,労働者と同じ場所で働き,健康障害を生ずるおそれのある物を取り扱う場合に,安衛法57条が労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難い。
(…以下、略)


出典:裁判所HP「最高裁判例集」の令和3年5月17日判決(事件番号平成30(受)1447)の「全文」より一部抜粋、加工して作成

簡単にまとめると、自社の労働者も一人親方等も同じ作業場所であればその危険性(判決の事例ではアスベストによる肺がんなどの健康障害)は同じなので、雇用形態が自社の労働者と異なるという理由だけで、同じ作業場所で働く一人親方等を保護対象外とすべきでないということです。

このように、一人親方等も労働安全衛生法の保護の対象になり得るとの判断が示され、その2年後の令和5年4月に法令改正が施行されました。
この令和5年4月施行と今回の令和7年4月施行を、並べて比較してみます。

出典:厚労省HP「個人事業者等の安全衛生対策について」における「労働安全衛生規則等の一部改正(2023年4月~施行)」の「パンフレット等」P1より一部抜粋・引用、加工して作成

出典:2025年国リーフレットP1より一部抜粋・引用、加工して作成

相違点を簡潔にまとめると、以下のとおりです。
・令和5年4月施行:健康障害防止のための保護措置が対象
 ⇒粉じん障害防止規則など、化学的・作業環境的な安全のための規制が主に関係
・令和7年4月施行:作業場所に起因する危険性に対する保護措置が対象
 ⇒クレーン等安全規則など、場所的・物理的な安全のための規制が主に関係
このように、法令の規制内容も重要ですが、その背景や目的をおさえておくことも同じく大切だと思います。

以上が、退避や立入禁止等の措置の対象範囲拡大など(令和7年4月施行)の概要とその注意点です。少しでも参考になれば幸いです。

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