第29回 建設業と労務④(1年単位の変形労働時間制について)

今回のテーマは1年単位の変形労働時間制です。
原則の労働時間制は1日8時間、1週40時間以内ですが、業務の繁忙期と閑散期がある場合に、労働時間の配分を効率的に行いにくいことがあります。

このときに、繁忙期の所定労働時間を長くとる代わりに閑散期の所定労働時間を短くし、期間を平均した1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えないようにするなどの要件を設けることで、全体として労働時間を短縮するというのが変形労働時間制の目的です。
変形労働時間制には、1週間単位、1か月単位、1年単位、フレックスタイム制などの種類がありますが、今回は1年単位についてとりあげます。

まず、1年単位の変形労働時間制の概要について、国の資料をご覧ください。

出典:厚労省リーフレット「建設業における1年単位の変形労働時間制のポイント」(以下、「国リーフレット」)P1を引用し、一部加工して作成

上記➀~⑤のとおり、年間の労働日数や1日・1週の労働時間に上限が設けられるなど、一定の要件が設けられています。

ここで少し補足を行います。
➀について、対象期間が1年の場合に280日という上限ですが、対象期間が3か月以上1年未満の場合は、対象期間の歴日数に応じて比例配分します。例えば、歴日数が180日の場合は、280日×(180日÷365日)≒138日です。
➁について、連続労働日数は原則6日なのですが、対象期間の中でも特に業務が繁忙な期間を「特定期間」として定めるのですが、その特定期間においては12日となります。
これは例えば、特定期間中は、1週目の月曜日に休日とした場合、1週目の火曜日から2週目の土曜日まで勤務(連続12日)し、2週目の日曜日に休日とすることが可能ということです。なお、特定期間の変更は認められていません。
国の通達による法令の解釈は以下のとおりです。

(七) 連続して労働させる日数の限度
法第三二条の四第一項第三号の特定期間は対象期間中の特に業務が繁忙な期間であることから、対象期間の相当部分を特定期間として定める労使協定は、法の趣旨に反するものであること。また、対象期間中に特定期間を変更することはできないものであること。

出典:労働基準局長通達「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」(平成11年1月29日基発第45号)(以下、「国通知」)より一部抜粋、加工して作成

また、⑤について、3か月ごとに区分した各期間で、労働時間が週48時間を超える週は3回までとあるのですが、これのカウントの仕方は期間内にある「週の初日の数」である点が要注意です。
以下の国の通達をご覧ください。

(六) 一日及び一週間の労働時間の限度
則第一二条の四第四項第二号は、「その労働時間が四八時間を超える週の初日の数」について規定していることから、同号の規定により区分した各期間における最後の週の末日が当該各期間に属する日でない場合であっても、当該週の労働時間が四八時間を超えるのであれば、当該週の初日が同号の「初日」として取り扱われるものであること。

出典:国通知より一部抜粋、加工して作成

これは例えば、令和7年4月~6月の3か月の対象期間において、6月30日(月)~7月4日(金)の週の労働時間が48時間を超えた場合、この週の初日が対象期間に含まれることから、「3回まで」の中にカウントされるということです。

また、あくまで1年単位の変形労働時間制では、業務の都合による労働時間の変更は認められていないので、事前にしっかりと検討して、労使協定に定めておくことが大切です。
詳しくは下記通知をご覧ください。

2(1)
ハ 労働時間の特定 
一年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定めることを要し、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は、これに該当しないものであること。
したがって、例えば貸切観光バス等のように、業務の性質上一日八時間、週四〇時間を超えて労働させる日又は週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務又は労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、一年単位の変形労働時間制を適用する余地はないものであること。

出典:労働基準局長通知(平成6年1月4日基発1号)より一部抜粋、加工して作成

そして、労働日や労働日ごとの労働時間を勤務カレンダーとして定めるときは、あらかじめ1年分定めておくなどの方法があります。
また、1年単位の変形労働時間制を導入するためには、労使協定締結のほか、就業規則への規定、労働基準監督署への届け出(労使協定と就業規則両方)、労働者への周知などが必要です。
具体的には以下の資料をご覧ください。

出典:国リーフレットP2を引用し、一部加工して作成

出典:国リーフレットP3を引用し、一部加工して作成

以上が、建設業と労務④(1年単位の変形労働時間制について)の概要とその注意点です。少しでも参考になれば幸いです。

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